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風景写真家・松井章のブログ

スペイン・ピレネー山脈:激動の歴史の原点

ピレネー山脈の成り立ち


ピレネー山脈は、スペインとフランスの国境部に位置する東西430㎞の山脈です。イベリア半島とヨーロッパ大陸が衝突して地層が褶曲されて押し上げられたのがピレネー山脈の成り立ちです。その衝突の圧力の違いから、北側のフランス側の斜面は荒々しい花崗岩の山塊が広がり、南側のスペイン側は石灰岩による大渓谷を形成しています。

文明衝突の最前線:ピレネー山脈


ピレネー山脈は古くは文明の衝突の最前線であり、人の往来を阻む大きな壁のような存在で、多くの民族が出入しました。山脈の南部はスペイン語やカタルーニャ語を話し、北部ではフランス語やオック語(フランス語の方言)を、そして西部ではバスク語を話す人々が暮らします。ヨーロッパでは、言語とは色彩表現でいうところの“グラデーション状”の移り変わりであり、スペイン語やフランス語もラテン語を原型とする兄弟のような言語です。そのなかで、どの言葉とも起源を同じくしないバスク語などは、その発祥が現在も曖昧で謎に満ちています。バスク人は、ラテン系の人々とは髪や目の色も異なり、一説には北欧のバイキングがルーツと言われています。また、山脈には小さな独立国・アンドーラ王国があることも、ピレネー山脈の深く複雑な歴史を暗示しています。

ヨーロッパがイベリア半島をイスラム教に占領されてから奪還するまでは、ヨーロッパは黒い森に住む辺境の小さな文明に過ぎず、世界史はアラビア文明を中心に動いていました。アラビアからヨーロッパへ、文明の主役が交代するきっかけとなったのが、イベリア半島を奪還するレコンキスタ(国土復帰運動)なのです。そして、ルネッサンスの華やかな時代に繋がります。

太陽信仰の名残を見つける

山深い村々にはキリスト文明以前の古いアニミズムの文化も残り、なかなかキリスト教文明に一元化されなかった歴史は、古いお墓に行けば少し分かるでしょう。通常のキリスト教のお墓には十字架が立っています。しかし、古いお墓の中には、丸い円の中に十字が小さく入っているものもあります。これは太陽信仰の名残といわれています。太陽の中に入った十字は時代とともに太陽を押し破り、徐々に円が小さくなり、十字架と太陽の大きさが逆転して行く様は、お墓の年代順で並べると分かりやすいでしょう。

国土復帰運動(レコンキスタ)と連動した「サンティアゴ巡礼」


この多彩な文化の集まるピレネー山脈を、イベリア半島の北西部サンティアゴ・デ・コンポステーラを目指すサンティアゴ巡礼路が通っています。
かつて約600年ほど前、ヨーロッパの南部を成すイベリア半島は、アラビアのイスラム教徒に占領されていました。スペインのフラメンコの舞踏の起源も、このアラビア占領の時代に遡ります。フランス以北に押し込まれたヨーロッパ文明が、レコンキスタ(国土復帰運動)を興して、フランスからイベリア半島に攻め込んだ時に、ピレネー山脈はその出撃の拠点でもありました。
この国土復帰運動と軌を一にして盛んになったのが、サンティアゴ巡礼路です。戦の神でもある聖ヤコブ(サンティアゴ)を祭り、イベリア半島北西部のサンティアゴ・デ・コンポステーラを聖地としたのには、国土復帰運動が大きく関わっているのです。

「ローランの裂け目」からイベリア半島に進撃したヨーロッパ


「ピレネー山脈から南はアフリカである」。かつて国土復帰運動の時代のヨーロッパ人にとって、イベリア半島から南へ攻め込むことは全くの異文化へ進撃することを意味しました。キリスト教文明とイスラム教文明の激しい衝突です。
この文明の衝突の最前線として、国境越えに利用されたのが、「ブレッシュ・ド・ローラン」の峠、通称“ローランの裂け目”です。石灰岩の荒々しい谷の中で、唯一まるで城塞の門のように巨大な岩の裂け目があります。ここは今でもスペインとフランスの国境地帯であり、当時の国土復帰運動の時代も、ローランの裂け目は物理的にも精神的にもヨーロッパとアフリカを隔てる巨大な門でした。

岩峰と花々が織り成す静かな絶景


かつてヨーロッパ文明とアラビア文明の激しいせめぎ合いの最前線であったピレネー山脈も、今では静かで素朴な村々が点在する地域です。壮大な岩峰群や湖沼群、初夏には花々が咲き乱れ、中世の雰囲気を色濃く残す村々を目にするでしょう。。

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