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「風の国」パタゴニアに宿る自然の摂理
「暴風圏」とも呼ばれる偏西風帯に位置するパタゴニアは、世界屈指の“風の国”だ。風速30mの風が当たり前のように吹いている。
空に浮かぶ雲も、ごんごんと風に流されていく。さらに高い雲は、レンズ雲となり、絵筆でなぞったような不思議な形で浮かんでいる。レンズ雲は上空に浮く暴風の証だ。
パタゴニアでは、全てが風に支配されている。
たとえば、パタゴニア名物とも言えるのが、風向きに傾いた木だ。同じ風向きで常に暴風が吹き続けるので、木もまた風向きに傾いて育つ。
東京都と同じ面積を持つパタゴニア南部氷原の近くでは、谷に吹き下ろす風は強烈で、天気が荒れている時には、大人でも立っていることができないほどだ。
そんな風の日も森の中は安全だ。上空ではジェット機が絶えず飛び交うような轟音が響いているのだが、森の木々がすべての風を受け止めているので、森の中は穏やかなのだ。
このときほど、森の偉大さや木に守られている実感を感じることはないだろう。
パタゴニアで森を形成する木の大半が「南極ブナ」の木だ。暴風に適応することで繁栄した南極ブナは、パタゴニアのシンボルと言えるだろう
森の木々の寿命は長くて100年ほどと言われている。暴力的とも言える強さの風は、森の木々の「最期の日」を決める。暴風に耐えかねたある日、木はメキメキと折れて最期を迎える。
枯れ木は腐葉土として森の滋養となり、木々の苗床として姿を変えるのだ。
大自然の地球に宿る鼓動は、祝祭的で同時に暴力的でもある。人も動物も植物も、なすすべもない地球のエネルギーを人は神と呼び、その自然の摂理の下で生きるのだ。
世界における人の存在の小ささを良い意味で感じさせてくれるのが、パタゴニアだ。