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パタゴニア名物の暴風
パタゴニアの名物ともいえる風は、「暴風」という表現がぴったりなほどに強烈に吹いている。
ときに立っていることができないほどに強い風は、日本でいえば大型台風の時にしか体験できないほどで、こんな風が毎日吹き荒れるのがパタゴニアなのだ。
複雑な地形の谷に風が吹き下ろすときには、風向きは絶えず変化して四方から吹き寄せるので、這って森へ避難したことが何度もあるほどだ。
全てを吹き飛ばす風に当たっていると、心もスッキリとしてくるので、パタゴニアの暴風をこよなく愛している。
パタゴニアのあまりにも壮大な風景に、この暴風は欠かすことのできない重要な役割を果たしている。
南極から吹き寄せる無垢な風とパタゴニア氷原
パタゴニアに吹く風は、南極還流に影響を受けた偏西風だ。限りなく純粋な大気の塊は、太平洋の湿度とともに南米大陸の尻尾に衝突する。南北に延びるアンデス山脈は壁のような役目を果たし、山麓に膨大な降水量が世界で3番目に大きな氷の盆地「パタゴニア北部・南部氷原(大陸氷床)」を作り出した。
アンデス山脈で湿度を落とすので、東側には乾燥した風が吹き降りる。パタゴニアの東側に乾燥した大草原(パンパ)が広がる理由だ。
風向きに育つ木
パタゴニア氷原から吹き下ろす西風は、木の形をも変えてしまう。ある谷では風は必ず西から吹くので、風向きを表示するように気は傾いて成長する。絶えず暴風が吹くパタゴニアらしい造形物の一つが傾いて育つ木なのだ。
高積雲「レンズ雲」がオーロラのように輝く
パタゴニアの暴風の象徴ともいえるのが高積雲「レンズ雲」だ。日本では稀に富士山の上空に現れるレンズ雲だが、パタゴニアの空には絶えずレンズ雲が浮かんでいる。
このレンズ雲に、朝日や夕日が当たるときに、摩訶不思議に輝くことがある。オーロラのように空に揺らめきながら妖艶に輝いている。この世のものとは思えない、パタゴニアが作り出す自然のショーと言えるだろう。
風という大気の化石
太平洋から吹き寄せる風はどこまでも清浄だ。暴風を一身に受けながら空気を吸っていると心が洗われるようだ。
その風が秘める物語を表現した詩がある。パタゴニアの風に打たれるときに、いつも心の片隅で思い出す。
『すべての物資は化石であり、その昔は一度きりの昔ではない。いきものとは息をつくるもの、風をつくるものだ。太古からいきもののつくった風をすべて集めている図書館が、地球をとりまく大気だ。風がすっぽり体をつつむ時、それは古い物語が吹いてきたのだと思えばいい。風こそは信じがたいほどやわらかな、真の化石なのだ。』
(谷川雁『ものがたり交響』から抜粋)
関連ページ:パタゴニア