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風景写真家・松井章のブログ

パタゴニアの大草原『パンパ』:秘境サンマルティン湖のコンドル牧場へ

南北1800キロの大草原『パンパ』

パタゴニアの草原はとてつもなく広い。南北約1800キロに渡り、延々と荒涼とした草原が広がる。大草原「パンパ」は一見すると何もない荒野だが、ラクダ科のグアナコや小型のダチョウ・ダーウィンレア、そしてピューマが生きる野生動物の土地でもある。そして、150年ほど前にやって来た人と羊も、パンパの重要な存在だ。

20時間ほどバスで移動したことがあるが、その道中で景色が全く変わらないことに感動したものだ。空は覆いかぶさるように大きく、人の存在はあまりにも小さい。

この1800キロに渡る荒野の内陸を縦断するルート40号線は、パタゴニアで最も文明から隔絶された土地だ。パタゴニアに住む人でさえも立ち入らない、羊と牧童ガウチョが闊歩する別天地なのだ。

フィッツロイ山麓のエルチャルテン村から、ルート40号線を通り、サンマルティン湖の畔の「コンドル牧場」を目指した。アルゼンチンでは広大な牧場は「エスタンシア」と呼ばれ、独立と開拓の礎を築いた象徴的な存在だ。
つまり“牧場”という言葉に重みがある。

サンマルティン湖の畔・コンドル牧場

途中、ガソリンスタンドのあるトレス・ラゴス村で給油すると、ルート40号線から私道に入り、約150キロは未舗装の道路となる。車とすれ違うことも全くない。ガス欠や車の故障は、パタゴニアの奥地では致命的なのだと実感できるだろう。

エルチャルテン村から4時間ほど、延々と続く荒野の果てに、コンドル牧場に到着した。コンドル牧場は、ツーリストに開放した観光牧場だが、立地は極めて秘境なので訪問者はあまりいない。コンドル牧場という名前の通りに、空を見上げれば、コンドルが何羽も舞っていた。

コンドルは強風がなければ生きていくことができない鳥だ。その巨躯を持ち上げるために、コンドルは羽ばたくのではなく、旋回するように滑空する。その悠々と舞う姿はパタゴニアやアンデス山脈だけで見ることができる雄姿だ。

コンドル牧場はアンデス山脈に接するので、山と草原、そしてエメラルド色のサンマルティン湖が織り成す変化のある景色が美しい。荒野の中で遠く小さく、染みのような小さな木立が見えてくる。このポプラの防風林に囲まれた小さな数軒の建物で、周囲の数十キロの草原を管理している。

老ガウチョ「グリンゴ」

コンドル牧場で名物的な存在となっている通称・グリンゴは、アルゼンチンの牧童・ガウチョらしい面構えだ。風雨に長年に渡り刻まれた深い皺は、まるで年輪のようで、まさしく彼がガウチョであることを物語る。

とはいえ、独特な愛嬌があるので、老ガウチョはアイドルのように人気があり、この辺境の牧場に訪問者を惹きつけている。

コンドル牧場は、まさしくパタゴニアの奥地だ。壮麗で無人のアンデス山脈の深い谷には、ガウチョの力を借りれば入ることもできる。未知の山域はまだまだ無限に目の前に広がっているのだ

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