目次
フィッツロイ山麓のエルチャルテン:巡り替わる季節
季節を五感で感じることができるのは、人間ならではの微細な感性ではないだろうか。
それとも、それは太古の時代から生き残る命に宿る本能的な野性なのか
ある日、ある瞬間、来る季節の到来を明確に感じることがある。
それはとてもふと瞬間に唐突に訪れるものだが、その感覚は自身の体に記憶されるようで、
かくして身体の季節感は感情や情報よりも一つ先を行き、準備を済ませてしまうようだ。
パタゴニアの冬の足音
パタゴニアで冬の足音を聞いたのは、ふとした瞬間であった。
その日、フィッツロイに射す朝日を撮るために、真っ暗な時間に出発した。
その暗闇を歩き始めたときの、その闇の響きの中に、唐突に冬の到来を感じたものだ。
それは闇に響く足音か、それとも吹き付ける風にあったのか。
紅葉の最盛期を前にまだ盛秋という気持ちであったが、その日に冬がやって来たようであった。
それからの数日でフィッツロイ山麓は、降雪と融雪を繰り返しながら、みるみる内に冬へと突き進んだ。
晩秋、あるいは初冬と呼ぶべきか、たしかに小さく季節が前進した日であった。
身体が感じる微細な変化を、意識や感性が感じ取る時には、素直に受け入れる余裕を持ちたいものだと思っている。
そして、その感覚を他者と共有するのは少し難しいので、胸に秘めるようにしている。