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グアナコの楽園、パイネ国立公園(チリ・パタゴニア)
“アンデスのラクダ”といえば、高地のリャマやアルパカをイメージされますが、標高の低いパタゴニア・アンデスでは「グアナコ」が生息しています。
牧羊の発展とともに大草原は大牧場に分割されて行く中で、羊が同じ草を好んでしまったために、グアナコは害獣として駆除されながら数を減らしてきました。
そうした時代のなか、広大な草原を有するパイネ国立公園(チリ・パタゴニア)では、グアナコは手厚く保護されてきました。
野生の本能なのか、グアナコはパイネ国立公園が安全地帯であることを知ったのでしょうか。
パイネ国立公園には多くのグアナコが集まり、そして繁殖することで、今ではグアナコの楽園のような場所になっています。
グアナコを至近距離で写真撮影
そうした時代を経て、今ではパタゴニア全体で、グアナコは大事にされています。
といっても、国立公園の外は広大な私有地です。
延々と有刺鉄線で区切られて、草原は牧場となっています。
私有地で出会うグアナコは人が近づくとすぐに逃げてしまいます。
一方、パイネ国立公園にいるグアナコは人との間合いが狭く近づいても逃げないので、グアナコの写真を撮るには好都合な場所です。
グアナコとピューマの密接な食物連鎖の関係
グアナコは、パタゴニアに生息するピューマにとっては貴重な食糧です。
体長2mほどもある巨大なヤマネコであるピューマは、グアナコという食糧がなくては生きていけません。
グアナコの保護は、間接的にピューマの保護にも一役買っているのです。
とても用心深く、めったに見ることのできないピューマですが、パイネ国立公園の中にも確実に生息しています。
ピューマのテリトリー内に行くと、グアナコの死骸や骨が散乱していたります。
まだ食べたばかりの新しい死骸や、土に風化しかけている骨と毛皮だけの古い死骸など、ここでピューマが現在進行形で生きていることを感じられますが、その姿はそう簡単には見られません。
今も数を減らしていくピューマ
グアナコがパタゴニア全体で保護されているのに対して、ピューマは今でも棲息数を減らしています。
彼らにとって、グアナコとともに、羊も貴重な食糧だからです。
そして、子連れのピューマにとって、羊の群れはかっこうのハンティングの練習対象となります。
子供に狩りを教えるために、ときに大量の羊を殺してしまいます。
牧場の敷地内では、今もピューマは害獣なのです。
羊を管理する牧童・ガウチョ達にとって、ピューマは宿敵であり続けるでしょう。
パタゴニアの食物連鎖に入ってきた羊
国立公園の外、牧場の敷地を行き交うグアナコは、延々と張り巡らされる有刺鉄線で命を落とすこともあります。
車で移動していると、走って逃げるグアナコが有刺鉄線の柵をジャンプして越える場面を眼にします。
この有刺鉄線を越えられずに引っかかってしまうグアナコもいるのです。
羊の好物の草・コイロンは、グアナコにとっても貴重な食糧です。
化学繊維の登場で牧羊産業が衰退していく現在は、羊の数が減り、それはグアナコにとって幸運でした。
果てしなく広がるかに見えるパタゴニア草原にも限りはあり、かつて大量に放牧されていた羊は、コイロン草の生育のバランスを超えていたからです。
グアナコと羊の根本的な適応力の違い
長くパタゴニアに生息するグアナコの歯の形は、パタゴニアの草にも適応しています。
その葉の形のおかげで、グアナコはコイロン草を根こそぎにしないので、また生えてくるのです。
他方、羊の歯形では、コイロン草を根こそぎ食べてしまうので草原が回復するのにとても時間がかかります。
グアナコの足も、爪が毛で覆われていることで、馬の蹄のように土を浸食することなく、草原の環境に優しく適応しているのです。
食物連鎖に取り込まれる新しいバランス
微妙な食物連鎖の関係の中に割って入るようにやってきた牧羊は、パタゴニアにとって、とてつもないインパクトです。
パイネ国立公園で手厚く保護されるグアナコの状況も、棲息数が増えすぎた時にバランスが崩れる可能性もあります。
かつて1万年以上の長い間、先住民もまたその食物連鎖の一部であったように、人に狩られる数も織り込み積みで食物連鎖のバランスはできあがっていました。
一部の動物だけが特に厚く保護されることがどんな影響をもたらすのか、
今パタゴニアの生態系は100年単位のスパンで過渡期にあるのでしょう。