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マルビナス諸島:最初に住んだのは誰か?
アルゼンチン南部、パタゴニアの大西洋沖にあるマルビナス諸島(フォークランド諸島)は、アルゼンチンではマルビナス諸島、英国ではフォークランド諸島と呼ばれています。
この地域は1982年のフォークランド紛争でのアルゼンチンの敗北以来、イギリスの影響下にありますが、今もなおアルゼンチンとイギリスで抱える領有権問題として続いています。
領有権を主張するときに、その土地に誰が先に住んだのかが大きな論点になります。
一般的には、フォークランド諸島/マルビナス諸島は、大航海時代までは無人の土地であったと考えられていました。パタゴニア沿岸部から600km離れたこの寒冷な島には、はるか昔から人が住んでいたようです。
謎の“キツネ”が物語る人類の歴史
マルビナス諸島(フォークランド諸島)における人類の痕跡として注目されたのは、一頭のキツネの記録です。
19世紀にこの島を訪れたチャールズ・ダーウィンは、キツネの存在を記録していました。南米大陸(パタゴニア地方)とこの島々の間には約600kmの距離があります。キツネはどのように海を越えて来たのでしょうか?
遺伝子からこのキツネはパタゴニアに生息するキツネと近縁ということも分かりました。
ダーウィンは‟愛嬌のあるキツネ“と記録していることからも、人間に家畜化されたキツネがパタゴニアから人とともに来た、という仮説が立てられました。
こうして調査が始まると、実際に人類の存在が浮かび上がってきました。
島で採取された化石化した木炭の堆積物を分析すると、ヨーロッパ人が来る以前に行われた焚火の痕跡が発見されます。
同時に、アシカやペンギンの骨の塚のようなものも発見されました。
この島に住み着いた人々は、対岸のパタゴニア地方に暮らしていた先住民ヤーガン族であったと考えられます。彼らはカヌーの航海技術を持ち、定住することなくパタゴニア南部のフィヨルド地帯を流浪して暮していたからです。
パタゴニア南端部のフエゴ島という名前も、ヤーガン族の焚火の火(スペイン語:フエゴ)にちなんで付けられました。大航海時代のヨーロッパ人にとって、パタゴニアという“地の果て”は地獄の一つとして恐れていたので、上陸せずに船上から様子を見ることが多かったからです。
そして、ヤーガン族はキツネではありませんが、家畜化した犬をカヌーに乗せている記録は残っています。
まだフォークランド(マルビナス)諸島では、ヤーガン族の具体的な定住地は見つかっていないので、これからより深い研究が待たれるようです。
ヤーガン族とは
先住民ヤーガン族はすでに500人にも満たない滅びゆく民族です。150年ほど前に、パタゴニア地方の草原が牧羊に適すと発見されてからは土地を追われ、苦難の歴史を辿りました。
もともとパタゴニアには草原に暮らすテウェルチェ族、海岸部に暮らすヤーガン族やセルクナム族、カワスカル族、ヤマーナ族など、いくつかの部族が移動生活をしていました。