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南極の短い夏、アザラシの楽園で
南極に訪れる短い夏、1月は海洋生物にとって最も過ごしやすい季節でしょう。
白夜で日が長く、餌となるオキアミも増えて、哺乳類は子育てに忙しそうです。
ある昼下がり、船を降りて、ゾディアックボートで小さな湾に無数に浮かぶ氷山の迷路に入りました。
周囲にはたくさんのウェッデルアザラシが氷の上で昼寝をしています。朝の食事の時間が終わり、ひと休憩というところでしょうか。
氷の迷宮に入り込むと、風は吹かず、水面は鏡のように凪いでいます。
物音がしないというよりは、氷が音を吸収しているのではないかと勘違いしてしまうように、音が消えて、静かにボートのエンジン音だけが響きます。
奥の方へと入っていくと、氷塊の向こうから、ごぉごぉと音が聞こえてきました。
あまりにも不自然な音で、最初は何の音か理解できませんでした。
いよいよ音の源へ、氷の間をやってくると、音の主が見えてきました。
アザラシが水中で鼻先だけを出して、昼寝をしていたのです。
そこから響き渡るのは盛大ないびきでした。
茶柱のように器用に縦に浮かびながら眠っています。
アザラシにとっては、夏の日差しは暑いのかもしれません。
いびきのリズムに合わせて上下しているアザラシは、ときどき顔が水中にごぼごぼと沈んでしまいます。
それでも一向に気にすることなく、眠り続けていました。
青空の下、青く輝く氷の迷宮は、どこよりも平和なひとときでした。
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