ビエドマ湖の西の外れに位置するヘルシンガー牧場は、大陸氷床から冷たく激しい風が吹き下りる“氷河谷”にある。
西側の山脈が、大陸氷床の分厚い氷を堰き止める役を果たしている。
その氷床の氷が山脈を越えて溢れ出てきているのが、氷河だ。
氷河を辿るように、風も吹き下りてくる。
ヘルシンガー牧場の宿舎を囲む防風林に入れば、強風の入り込まない別世界となる。
上空ではジェット機が通るような轟音が響いている。
風は、常に西風だ。
立っていられないほどの強風が常に吹き荒れるので、防風林の西側の木は、奇妙な形に育つ。
木の枝は、全て東向きに育つのだ。
風の吹かない日でも、この谷がどれほど強い風が吹く場所であるのか、目で見て分かるのだ。