「風の大地」とも呼ばれるパタゴニアでは、やはり風の洗礼を受けないと、もったいないなぁと思います。
風が大好きな私は、パタゴニアの猛烈な風を浴びている時が、猛烈に幸せです。フィッツ・ロイを見ながら寝転がり、何時間も強風の中に佇む、その時が一番幸せです。
この風好きは周りの人には理解できないレベルのようで、強風好きでは既に変態の域に達しているのかもしれません。パタゴニアの風は本当に容赦なくて、まさに父性です。
写真の雲の中に、セロ・トーレがそびえています。フィッツ・ロイの横にあるセロ・トーレは、山塊の裏側の大陸氷床に直に接しているために、天候の変化はフィッツロイよりも強烈です。
この雲にセロ・トーレが覆われている時、山麓は強烈な風でした。細い谷にあるセロ・トーレの東側は、風が集まる場所です。ここで強烈な風が吹くとき、立てないほどに吹くこともあります。この写真を撮った時は、さすがの私も退散しました。強烈な突風が、四方から吹くからです。どちらかに体重をかけると、とつぜん逆から風が襲い掛かるので、這って森に逃げるしかありませんでした。
風に木が倒されるのを見たこともあります。パタゴニアの南極ブナの多くは、風に倒されて最後を迎えるのです。
「すべての物質は化石であり、その昔は一度きりの昔ではない。
いきものとは息をつくるもの、風をつくるものだ。
太古からいきもののつくった風をすべて集めている図書館が、地球をとりまく大気だ。
風がすっぽり体をつつむ時、それは古い物語が吹いてきたのだと思えばいい。
風こそは信じがたいほどやわらかい、真の化石だ。」
(谷川雁『ものがたり交響』より)
セロ・トーレ