アルゼンチン・パタゴニアを代表するロス・グラシアレス国立公園を歩くと、人工物がほとんどないことに気付きます。その非管理は徹底的な管理とも言えるほどで、16年前に私が初めて泊ったキャンプ場は今でもほとんど変わっていません。人間の影響を最小限に抑えるという方針だからでしょう。
一方、チリを代表するパイネ国立公園は、年々変化しています。宿泊施設の整備や荷物を運ぶポーターの決まりなど、目に見える形で経済性も踏まえて管理しています。もちろん便利で快適になりましたが、少し残念でもあります。かつて暴風の中でキャンプをした場所に今では立派なロッジが建ち、雰囲気が変わってしまったからです。
2つの隣接する国立公園の管理法が全然違うことに驚かされます。国境を越えると、国はぜんぜん違うという当然のことを改めて実感します。
今チリ側のパタゴニアで、大きな問題が起こっています。中部パタゴニアの原生林の中を流れる川に、ダムを作る計画です。南米の中でも特に政治・経済が安定していることで、開発が急ピッチに進んでいるのです。このダムは水力発電用に建設されるもので、その電力は遠く2000キロ離れた首都・サンティアゴに送電されます。その2000キロの送電線の建設のために、森も切り開くことになります。
ダムが川に、伐採が森に与えるインパクトやその後のさらなる開発を考えると、今後のパタゴニアの環境行政の方向性を問う大きな問題となるでしょう。ダム反対運動は日に日に大きくなってますが、国策なのでチリ政府は何が何でも実行するような気がします。現在チリ経済は好調で、外資をどんどん取り込んで発展著しい国です。
中部パタゴニアの大牧場を駆ける牧童(チリ名:バケリート、アルゼンチン名:ガウチョ)達が集まり、馬でのデモを行ったりしています。それを見てると、なんだか泣けてきます。一部の中央政府の利益のために、地域が分断される構図は世界で共通だからです。
それはまた日本はどうなのか、と考えることにもなります。長良川河口堰、諫早湾干拓、二風谷ダムなど、お金を優先して自然を半永久的に破壊した例は、日本に無数にあるからです。この小さな島国が、敷設した舗装道路の長さでは、世界一(!)であるそうです。どれだけ開発優先であるかがわかります。それに加えて、52基もある原発まで抱えています。
遠い日本にいる私達が心配してもどうにもなりませんが、知って見つめることはとても大事な気がします。
ご興味のある方は、下記リンクを読んでみてください。
●Without dam
http://www.patagoniasinrepresas.cl/final/index-en.php
●スペイン語版(Sin represas)
http://www.patagoniasinrepresas.cl/final/index.php
●パタゴニア社ブログ
http://www.thecleanestline.jp/2011/05/chilean-government-seals-fate-of-wild-rivers.html
中部パタゴニアの名峰、セロ・カスティージョ