カストロが多くの知識人を虜にするのは、その対話力にあるのだと思う。
オリバー・ストーンやイグナシオ・ラモネとのインタビューに臨むカストロを見ていて、つくづくそれを感じたのだ。対話というコミュケーションを大切にするカストロは、好まない相手や愚問であったとしても、真摯に応えるらしい。相手の思うことをじっくりと聴き、大げさなジェスシャーとともに激しさや優しさを込めて全力で応える。断ち切りも押しつけもせず対話をすることは、なんて難しいことだろう。地位が高くなれば、なおさらその我は強くなるだろう。50年も自分を律するのだから、それはもう趣味に近いのかもしれない。
軍服姿で真っ白なスニーカーを履いて歩く巨人からまず学ぶべきは、カストロの真髄とも言える「対話」かもしれない。
社会主義という一種の平等主義の中で、共産圏にありがちな馴れ合いによる腐敗をキューバは最低限に抑えていると思う。それは町を歩いて感じるのだ。日本の中小企業でさえもその腐敗を免れないのに、国がその清廉さを保つのはカストロという巨大な対話者がいるからだろうか。
対話のない短絡的な言動には、本来の善さえも急進的にひっくり返して、ただの迷惑に替えてしまう。指導者が一番大切にすべきなのは、ビジネス力でもビジョンでもなく、思想に裏打ちされた対話力かもしれない。
にじり寄るようなコミュニケーションって大変だ。
でも、そこにしか道はないのかもしれない。
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