エリック・シプトンの伝記「嵐の大地」は、1958年から1962年にかけて行われた数度にわたるパタゴニア探検の記録だ。
当時、ビエドマ氷河の源流に、“ビエドマ火山”があると噂されていた。その火山があるとされる場所は割りと簡単に特定されていたが、誰も到達していなかった。その火山の真偽を確かめるために、シプトンは小さな探検隊を作り、ビエドマ氷河の源流に向かう。
ビエドマ湖にそそぐビエドマ氷河の源流・水源地は、東をフィッツロイとセロトーレの山群に、西をマリアーノ・モレノ山群に挟まれている。この東西の壁から溢れ出るように数十もの氷河が生まれている。
結果としてはその噂は間違いで、ビエドマ氷河の周辺には一つも火山がないことが確認される。その確認だけのために大変な労力をかけて探検を行い、坦々と記録していった。
パタゴニア探検の全盛期である1900年代前半から、半世紀も後になるのだが、この時代もまだパタゴニア大陸氷床は人跡未踏、一種の暗黒大陸であった。
一つ一つの謎が、汗と苦労で解き明かされる、黎明の時代だ