アルミランテ・ブラウン基地から、パラダイス・ハーバーに入り込むと、雰囲気ががらりと硬質に変わった。
周囲をぐるりと氷河に囲まれて、水面は鏡のように凪いでいる。
ゾディアックボートは静かに湾の奥へと進むと、一段と空気が冷えてきたようだ。
厚い雲に覆われた外気は冷たく、海水の表面の温度はぐんぐん下がっているのだろう。
海水の凍結は、とても微細に始まる。
真水と異なり融点が-1.8度の海水は、微細な蓮状で約2mm程度の円盤状の氷(晶氷)として凍り始める。
水面を漂うチリのような氷の破片は、静かに波に揺られながら時に衝突を繰り返し、徐々に大きくなっていく。
海氷と呼ばれる海水が凍った氷と、氷河から流れ落ちた氷は、そもそもの生成から異なるのだ。
南極の海を漂う氷には、大きく異なる2種類の氷がある。
ゾディアックボートのエンジンを切り、ボートの一同で写真撮影も止めてみる。
そうして耳を澄ませて静寂を楽しむ。
息を止めるような時間を、2・3分も過ごしただろうか。
誰とはなく沈黙に耐えかねて、各々で写真を撮り会話を始める。
ゾディアックボートのエンジンを動かし、前方の氷河へ向かう。
深く青い氷河は今にも崩れ落ちてきそうな立体的な迫力で迫る。まるで巨大な氷の壁に立ち向かっているようだ。
想像以上に氷河の規模は大きく、幅は3~4キロ、高さは400~500mあるだろうか。
鋭い岩峰の間からあふれ出すように、氷河は海面に一気に流れ込む。
四方を囲む氷河の迫力に圧倒されながら、ゾディアックボートはさらに氷河の近くへと進む