ルメール海峡を抜けて、この船旅の最も南、南極側に到着した。
このポート・シャルコーが折り返し地点だ。
ポートシャルコーの湾には、青い氷がぎっしりと浮かんでいた。
曇天の鈍い空の下で、氷はなぜこれほど青いのだろうか。
空の青を溜め込んだように、今は青い光を外に放っているかのようだ。
風と氷に波打つ音しか聞こえない静かな湾では、ときおりアザラシをみかける。
ひときわ青い氷の下で、アザラシが3~4頭で遊んでいるようだ。
近づくボートに興味があるのか、遊ぶのをやめて水面に顔を出し、じっとこちらを見つめている。
アザラシにとっても、我々にとっても、まさに邂逅という一瞬の出会いの時間を過ごし、
アザラシは我々が無害であることを悟ったのか、また遊びに興じていた。
浮かぶ氷塊の形は様々だ。
卵のような綺麗な円形に紋様が浮かぶような氷塊があれば、波や風に削られた荒々しく禍々しい形の氷もある。
一つとして同じ形はない無限のバリエーションが氷塊の魅力だろう。
これらの氷は、南極の陸地から流れ落ちて来た氷河が源だ。
何千年、何万年と、内陸の氷原で圧力を受け続けて圧縮された氷が、氷河として流れ落ち、海にたどり着いたのだ。
いま目の前の氷塊には、途方も無く長い歴史を持つ、自然の遺跡のようなものだ。
耳を澄ませば、氷の表面はプチプチとはぜる音が聞こえてくるだろう。
圧縮された硬い氷の奥深くに閉じ込められていた空気が、数万年ぶりに大気に出てきた音だ。
まるで生きているかのうように、氷塊は海に出てから、音を立てて古い空気を放出しながら、海を漂う旅をしている。