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氷上の野営地 -探検船で行く南極クルーズ-
真夏の南極では、キャンプができるほどに気温は高い
高いと言っても、深夜の一番寒い時間帯で、-5℃くらいであっただろうか。
探検船ではキャンプ希望者が多く、キャンセル待ちが40人ほどになる大人気であった。
キャンプの決定は、ギリギリまで決まらずに当日の午後にやっと催行が決まる。
広い南極大陸でどこでいつキャンプするかは、事前には決めづらくギリギリまで天候条件や野営地の安全を見極めるためだろう。
キャンプ地は、ジェンツーペンギンの集団営巣地(ルッカリー)のあるネコハーバーだ。
船での夕食後に、ペンギンの営巣地のすぐ脇を通り、雪上にテントを張った。
数万羽のペンギン達は夜まで鳴き声をあげていたが、夜に歩き回ることはしないようで、キャンプにやって来るペンギンはいなかった。
昼間から快晴が続いたために、氷河の崩壊の轟音は夜半まで続いた。
氷河が崩れるたびに大きな津波が起こり岸に押し寄せる。
キャンプ地は十分な高さに野営地を設営しているが、遠くに停泊中の船からは強烈なサーチライトが一晩中あてられていた。
これだけ氷河が崩壊するのを見ていると、南極における氷の需要と供給のバランスは、需要が優勢なのだろうと感じてしまう。
標高1500mほどの「フォービドゥン台地(氷原)」は、南極大陸の南極半島において、氷河の大供給源だ。
氷河の崩壊(=需要)が増えるほどに、源流地の氷は減り、海に流れ落ちる氷河の量も減少・縮小していく。
大陸から流出した氷は、そのほぼ等分が海水面の上昇に寄与したことになる。
2月の南極は、白夜の季節だ。
夜10時を過ぎても空は暗くならず、深夜1時頃も南極点の方角、つまり南の空は白んでいた。
満月に近い月の影響もあるが、この日の夜は「満点の星空」というわけにはいかなかった。
明るい夜空の中で、一際強く輝いていたのは「オリオン座」であった。
一等星・ベテルギウスは煌々と輝く。
日本からは南に見えるオリオン座も、南極からは北に見える。
南半球のシンボルともいえる「南十字星」を見た後に、日本でお馴染みの「オリオン座」を望んでいると、いま南極という地の果てにいることが一瞬とても不思議に思えてしまった。
ふかふかの寝袋に頭まで入り込み、ペンギンの鳴き声を聞いているうちに、たちまち深い深い眠りの世界に落ちることができた