目次
アルゼンチンの銀製品と草原パンパ
スペイン統治時代に、アルゼンチン北部のアンデス山脈では、膨大な銀が採掘されていました。大量の銀は、16世紀に欧州にインフレを引き起こしたほどです。
ブエノスアイレスに注ぐラプラタ川の「ラプラタ」が“銀”を意味するのも、川の上流に銀が見つかることを祈ったスペイン人達に名づけられた名前だからです。また、「アルゼンチン」という国名も、ラテン語で「銀」を意味します。
かつての繁栄を忍ばせる銀細工は、アルゼンチンの伝統工芸です。
豊富な銀の多くはスペインに持っていかれた歴史がありますが、アルゼンチン独立後は特に銀細工の工芸品が民間で発達しました。
今でもその銀細工を至るところで目にすることができます。
たとえば、マテ茶の茶器です。
マテ茶の茶器は様々ですが、高級品はヒョウタンを銀細工で包んでいるものです。このお茶を、濾す機能のあるストロー(ボンビージャ)で飲むのですが、このストローも銀製が高級品です。
また、大草原・パンパで牛や羊を追うガウチョ(カウボーイ、または牧童)たちも、馬具に銀製品を好んで使います。
細かい装飾の施された銀製品の馬具は、ナイフの束やベルト、拍車や鞍などです。
この銀細工を作る職人の工房に行きました。
銀細工は、マテ茶の茶器か馬具が多いので、工房もガウチョの住む村にあります。
地平線まで広がる大草原・パンパにある村は、今でも「ガウチョの里」と呼ばれ、アルゼンチンの人々に愛されるサン・アントニオ・アレコ村です。
アルゼンチンでは、ガウチョは単なるカウボーイという存在ではなく、独立戦争の時代に活躍したことから、尊敬の対象でもあります。アルゼンチンのナショナリズムの中心には、ガウチョ文化があります。
銀細工の工房に入ると、代々受け継がれてきたであろう道具が、各部屋にびっしりと置かれています。空気は止まり、重厚にさえ感じるのは、工房内にある物の歴史に圧倒されたのかもしれません。
ここにはアルゼンチンの文化が詰まっているのだと感じたものです。
そして、今も職人たちが黙々と作業に従事していました。
早い時代の流れの変遷の中でも、銀細工の工房は、きっといつまでも残っていけるだろうと思いました。