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名峰セロトーレと激烈な気候
暴風が吹き荒れるパタゴニアで、静寂に包まれるのは夜明けの時だけかもしれません。
特に天候が荒れやすいのが、針峰セロトーレ(3128m)の山麓です。
セロトーレは、フィッツロイ連峰で、主峰フィッツロイに次いで有名な山です。
世界で最も登攀が難しいといわれる山で、文字通り針のような山容の峰です。
ここが特に風が特殊な理由は、地形による影響が大きいです。
南極から吹く冷たい風が、パタゴニアの自然を支配しているのですが、フィッツロイ山群は南極からの風が当たる壁のような存在です。
山麓には、東京都ほどの面積がある「パタゴニア大陸氷床(氷原)」を作り出す降雪をもたらします。
パタゴニアといえば乾燥したイメージがありますが、それはアンデス山脈に風が当たり湿度がほとんど落ちてしまうことで、広大なステップ(乾燥した草原)が生まれたのです。
セロトーレという特殊な形の山に暴風が当たることで、山麓の谷に吹き降ろす風はとても癖があり、あらゆる方角から押し寄せてくることもあります。
暴風に耐えるために体重を傾けた瞬間、風が正反対から吹いてくるので立っていることさえもできないほどです。
そのような時には、匍匐前進するように這って歩いたものです。
そのような暴風を何度も体験していると、夜明けの時間、セロトーレ峰が静寂に包まれるのがいかに貴重であるかも分かります。
静まり返り、凪いで薄く凍結した湖面には逆さのセロトーレ峰が映っています。朝日の最初の光線が当たると、セロトーレ峰は燃えるように橙色に染まります。
このような瞬間に出会えたら、それはとても幸運なことです。