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パタゴニアの伝統料理「羊のアサード」とは
アサードとは炭火で骨付き肉をじっくりと焼くアルゼンチンの伝統料理です。
アサードといえば牛肉が有名ですが、アルゼンチンとチリ南部のパタゴニアでは「羊のアサード」が有名です。
パタゴニア産のラム肉は、世界中の食通が注目する食材であり、欧米から来る多くのツーリストがこのアサードに熱狂しています。
日本ではラム肉の臭みを気にする人が多いのですが、パタゴニアに生息するイネ科のコイロンという草を食べる羊には、臭みというものが一切無く、柔らかく適度な脂身のある芳醇な肉質で、ラム肉が苦手な人でも食べてしまうほどです。
“野趣溢れる”と表現されるアサードは、とても豪快な料理です。
大きな鉄の串に胴体を丸ごと串刺しにして、丸焼きにします。熾火の遠赤外線で、4~5時間ほどかけて、油を少しづつ落としながら焼きます。
味付けはとてもシンプルで、「サルムエラ」というソースを定期的に吹きかけるだけです。サルムエラは、塩・オレガノ・ニンニク・コショウ、そして水を混ぜた液体です。
この液体をペットボトルに入れて、ペットボトルの蓋にいくつもの穴を開けて、ボトルを押しつぶすようにしてサルムエラを吹きかけます。
パタゴニアのアサード専門店では、メニューには「Parrilla del cordero(パリーシャ・デル・コルデーロ:羊の焼肉)」と書かれています。これを頼めば、羊肉の各部位が乗せてあります。特に美味しいのは、あばら骨の部分でしょうか。
パタゴニア伝統料理のルーツ
パタゴニアの草原(パンパ)で羊が飼育され始めたのは、150年ほど前のことです。
17世紀のマゼランの探検以降、南米大陸に押し寄せた入植者たち、主にイタリア人とスペイン人が、のちのアルゼンチンの原型を作りました。しかし、はるか南にある荒涼としたパタゴニアの草原には価値を見出せず、200年以上も放置したままでした。
この無人のパタゴニアが初めて注目されたのが19世紀中盤です。
イギリス人が、パタゴニアの東の沖にあるマルビナス諸島(フォークランド諸島)に入植して、羊を持ち込んだのがきっかけでした。
パタゴニアに自生するコイロンが羊の好物であることに気づくと、彼らは羊牧のノウハウをパタゴニアに持ち込み、「ウール・ラッシュ」と呼ばれる羊毛による特需が生まれました。パタゴニアの草原はまたたくまに牧場の私有地として裁断され、数百万頭の羊が飼育されることになったのです。
それまでパタゴニアに興味を持っていなかったアルゼンチンやチリの政府も、慌てて国土に組み込み国境が確定されたのも、この時代です。
羊牧をするカウボーイ(ガウチョ)たちは、羊を連れて草を求めて何日も放浪します。彼らの食事は3食が全て羊料理で、彼らの野営の料理として、羊のアサードという伝統料理が確立しました。
ツーリストに開放する現在の牧場(エスタンシア)
現在では化学繊維の登場により羊毛の国際価格が下落したことで、多くの牧場(エスタンシアと呼ばれます)は羊牧の経営を縮小しています。
その代わりに、ツーリストに開放している牧場(エスタンシア)も増えています。
山脈や氷河もあるほどに広大な敷地をわずか数名のゲストで独占する少人数限定の高級リゾートです。昼間はハイキングや乗馬で自然を満喫して、夜にはパタゴニアの伝統料理を楽しみます。
パタゴニアの伝統料理「羊のアサード」を食べる究極の方法として、アサード発祥の舞台である牧場(エスタンシア)に宿泊することがお勧めです。