‟カヌーイスト”にして作家の野田知佑さんが84才でお亡くなりになりました。
80年代から90年代にかけて、カヌーに愛犬を乗せて、カナダとアラスカのユーコン川を旅する姿は、アウトドアのアイコンとして‟カヌーイスト”という造語が生まれるほどに注目されました。
カヌーにキャンプ道具を積み荒野の川を旅しながら、その文才から多くの本を書き上げました。
決して大冒険を語るわけではなく、荒野の旅を通して、
『人はどう生きるべきか』を問う一つの哲学を語りかけていたのだと思います。
極北の原野で出会う人々は、厳しい自然の中で自力で生きています。世界で最も裕福な国の中で、逆行するように不自由な荒野で一挙一動に責任を持つ「フルライフ」を生きる。
そんな極北の人の生き方や、自身の生き様を本音で語ることで、
将来に悩む荒削りで不器用で少し屈折した若者にエールを送っていました。
日本の小さな社会常識とは全く異なる、大きな世界で生きる人々の姿を読んで知るほどに、
好奇心が世界に向いたのは私だけではなかったでしょう。
そして、その文章の背後には、常に滔々と流れるユーコン川と極北の壮大な自然が感じられました。
読者は、野田氏の世界観に共鳴したのです。
私自身も当時は大学生で、著者の本に熱狂して、まさに擦り切れるほどに何度も読み返しました。そうして、山や川、アウトドアへの思いが強まり、南米やアラスカへと背中を押してもらいました。
たしか『野田知佑の人生相談』というタイトルの本で、ある悩める若者の就職相談に「就職なんかするな」とバッサリ斬って応えた言葉に感銘を受けて、大学生の私はいさぎよく就職活動を完全に放棄したものです。
そして、世界の自然やアウトドアに関わりながら、今もなんとか自分なりの活動で生きています。
あの時、本の帯に太字で書かれていた「抵抗しよう」という言葉を見て、社会や安定への抵抗なのだと青臭くも自分の矜持と決め込んでから、少なくとも後悔しない道を歩めました。
野田さん、ありがとうございました
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