目次
知床半島の原生林
流氷街道の終点ウトロから先は、いよいよ森が深くなっていきます。
知床半島が世界遺産に登録された理由は、豊かな原生林と流氷の恵みが育む生態系にあります。
原生林とは、人の手が入らずに太古の植生を受け継いでいる森を指します。
日本の森林の大部分は、人工林(人が管理する林)と天然林(人の手が入ったとのある林)が占めています。
日本の国土にわずかに残る原生林で有名なのは、知床半島、屋久島、白神山地などです。
知床半島の原生林の特徴は、エゾマツ・トドマツなどの常緑針葉樹と、ミズナラ・センノキ・イタヤカエデ・ハルニレ・シラカバやダケカンバなどの落葉広葉樹が混じりあう「針広混交林」であることです。
原生林を歩く:スノーシュー・トレッキング
冬の知床半島で絶景と自然を体験するために、スノーシュー・ハイキングがお勧めです。
特に、ガイド同行ツアーでは、森を歩き、開拓地から復元していく森と原生林の二つを目にすることができます。
そして森から海岸の断崖へ抜けると、流氷が織りなす絶景を見ることができます。
流氷がびっしりと水平線まで押し寄せています
真っ白な知床連山も望めます。
夕日の少し前、流氷は徐々に色が変わっていきます。
一見すると生き物の気配を感じませんが、よく見るとあちこちにエゾシカがいることに気づくでしょう。
木の若い枝や笹を食べるために、急斜面を歩いていることもあります。
▲熊による爪痕(冬は冬眠中です)
ウトロで最も美しい時間「夕日」
知床半島の西側で最も美しい時間帯は夕日です。
オホーツク海に陽が沈むときに天気が良ければ、世界が夕焼け色に染まるような一瞬に恵まれるかもしれません。
開拓の歴史
森に入ると開拓時代の名残をわずかに見ることができます。
1914年に始まる知床の開拓時代には、最大で約60世帯ほどの人々が暮らしていたからです。森を切り開き、畑作のために開墾をすることで生活圏を少しずつ広げていました。しかし、戦後、社会情勢の変化や知床の難しい気象条件や環境により、1966年にはすべての開拓者の家族はこの地を離れました。
ナショナル・トラストの先駆け「100平方メートル運動」
その後、高度経済成長期の乱開発の手が忍び寄ると、知床の自然を守るために人々は立ち上がり「しれとこ100平方メートル運動」を始めます。参加者から集めた寄付金をもとに、開拓で拓かれた私有地を買い取り、自然の森を再生させるというプロジェクト(ナショナル・トラスト)です。
運動が始まって40年以上の歳月が経ち、知床五湖の周辺では、その成果を見ることができます。知床五湖のビジターセンターにあたる「知床自然センター」から知床五湖の間の開拓地が、トラスト運動により保全されている森です。
手厚い自然保護により森はまるで原生林のように繁茂していますが、植生を見ると、原生林とは異なることに気づきます。本当の原生の自然に戻るまでは、さらに200年、300年という歳月が必要なのでしょう。
この自然保護運動は一つの大きな原動力となって、知床半島は世界遺産に登録されるようになるのです。