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熱帯雨林に覆われる西表島
沖縄県八重山諸島の西表島は、その独特の地形から日本では稀有な熱帯の自然が残る島です。熱帯雨林が島の9割を占めることで、ボルネオ島や南米アマゾンに似た風景が広がります。
周囲にある石垣島や竹富島の白砂のビーチ・リゾートの島々と、西表島がこれほどまでに異なるのは、島に小さくとも山脈がそびえるためです。最高峰・古見岳(469m)を中心に、琉球列島では屈指の規模の山々は島を横断するように連なります。
海から流れて来る湿度は山々にぶつかることで上昇気流を発生させて、雲が湧き出し、島に多雨をもたらします。高温多湿な気候で発達した熱帯雨林は、森自体も雨が降りやすい環境を作り出しています。地中の水分を吸い上げた木々は、光合成をする葉から水蒸気が蒸散させることで、森は自力でも雲と雨を生み出しているのです。
熱帯雨林も自ら雨を生み出すという一つの水のサイクルは、複雑なバランスの末に成り立つもので、古代から人の居住が少ない西表島ならではの自然なのです。
かつてマラリアが蔓延して人の移住を阻んできたという歴史も、原生林が守られた一因と言えるでしょう(マラリア蚊は1961年に根絶されました)。
ジャングルの奥地「ユツンの滝」へ
西表島の原生林を歩き、古見岳の山頂横の鞍部にあるユツンの滝(標高250m)へ行ってきました。ユツンの滝は、ジャングルをたっぷり約2時間ほど歩いて、ユツン(ユチン)川を遡ります。
このトレッキングの魅力は、深い原生林と美しい渓流の風景を望みながら歩けることです。
シダやヤシが繁茂する森の風景はあまりにも日本離れしていて新鮮です。同じような地形の島では、屋久島が有名ですが、屋久島の気候は温帯ですので、“熱帯雨林”とは植生が異なる“温帯雨林”です。いずれにせよ、どちらの森も生命が溢れるほどに生きる森で、人の存在はなんとも小さく感じてしまいます。
「東洋のガラパゴス」とも呼ばれる西表島は、太平洋の中で独特の進化を遂げた島です。それはある意味では、生き物の競合が大陸ほどに激しくないということです。
実際に南米大陸のアマゾンを歩けば、広大なジャングルで生命は果てしなく生存競争を繰り広げるためか、人に危害を加える動物・植物・昆虫がたくさんいるもので、うかつに木や草を触ることもできないほどです。
それに比べると、西表島のジャングルは、意外にも人に優しい面を感じさせるのです。
ユツン川の右岸と左岸を交互に歩きながら遡上していくと、森はいよいよ深くなります。コケが岩を覆い、光が射しこむとまばゆいほどに緑一色です。
また、徐々に滝に近づくにつれて、ユツン川の川床は巨大な一枚岩に変化します。砂岩と呼ばれる割と柔らかい岩なので、浸食作用を受けやすく、丸い穴が大小いくつも空いています。
この穴は“ポットホール”と呼ばれ、最初は窪みに入った小石が、長い年月をかけて水の流れでくるくる回りながら深く削ることでできあがると言われています。
ユツンの滝壺は、3段の滝を真上に望む絶景です。ジャングルの木の間から徐々に見えてくる滝はとても神秘的です。
あまり人が入らない森なので、この絶景を独り占めできることは贅沢です。このような神秘的な滝を前にすると、とても原初的な畏敬の念を滝に感じるものです。この極めて原初的な自然への畏敬の念が、人類による「宗教」という概念の発端ではと思います。
滝を見上げると目指すゴール地点が見えてきました。滝壺から滝の横の急斜面を登ります。ここはあまり人が入らないルートなので険しく、なかなか注意が必要です。
滝の頂上へ登ると、さらに一段と深い森が広がります。そして、その森を抜けると、木の間に青い太平洋を望む絶景が見えてきました。歩いて来た緑の深いジャングルはまさに“樹海”という言葉が合います。緑と一言で言ってもこれほどに微細で多様に緑色があることに感動を覚えます。緑と青のコントラストが美しいです。
海側の登山口から歩いて来たルートはジャングルが覆うので見えませんが、沢伝いのルートは地形を見れば、なんとかルートを想像することはできました。
天候は徐々に下り坂で、青空は少しずつ曇りはじめ、森の一部に雨が降るのが見え始めました。下山を始めると、勢いよく雨が降り始めました。しばらくすると雨は止み、森はさらに湿度が増します。変わりやすい熱帯雨林の気候は、特にお昼前後に雨が降ることが多いようです。おそらく午前中に発生した上昇気流が昼頃に雨を降らすのでしょう。
最後は美しい池に浸かり汗を流してから、トレッキングを終了しました。
ユツンの滝トレッキングは、西表島の原生林をたっぷりと歩き、見事な滝と、さらには山上から青い海と樹海を望める絶景が魅力です。
★トレッキングでは、現地ガイド会社「マリウド」さんにガイドしていただきました。