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屋久島の多様な風景を望む:宮之浦岳縦走
深い森を歩き、巨樹と会話するように歩く。山上の笹原で巨大な花崗岩を見上げ、清冽な泉の水を飲む。
屋久島を歩くのなら、1泊2日の山小屋泊で宮之浦岳(1936m)の縦走がお勧めです。洋上に屹立する宮之浦岳からは変化に富む風景と多様な植生を見ることができるからです。
巨木の森はあくまで屋久島の一面であり、山上には下界とは異なる絶景が広がります。
屋久島の森は、縄文時代の日本列島を彷彿とさせるような深い原生林です。
巨樹の森が吐き出す空気は森を浄化しているのか、思わず大きく息を吸い込んでしまいます。空気が美味しいとは、こんな時に言うのでしょう
木に宿る精霊を「木霊(こだま)」と呼びますが、もしかすると木霊は屋久島にいるのかもしれない。
人よりもはるかに大きな生命力が噎せ返るように張り詰める屋久島では、見えない何かのことを常に考えてしまいます。それは数百年、数千年と人間よりはるかに長く生きる木々が、原生林を形成しているからでしょう。
山上の楽園・花之江河から宮之浦岳へ
花之江河(1640m)は、屋久島最高峰・宮之浦岳の尾根に広がる高層湿原です。
宮之浦岳を縦走するときには、淀川入口から登山を開始して、花之江河まで約2時間登り、宮之浦岳へ向かうのが一般的です。
花之江河を始め、山上にはいくつもの美しい泉があります。天然のろ過装置を経て染み出す水は驚くほど清冽です。泉の脇でうつ伏せで横になり、水をごくごくと飲む。清水はほのかに甘く、実に美味しい。
小さな島なのになぜ水に恵まれているのでしょうか。これは屋久島特有の気候が影響しています。
東シナ海の黒潮とともに流れてきた湿った空気が、洋上のアルプスとして聳える屋久島の山々に衝突することで、豊かな降雨がこの島にもたらされます。
雨水は森に染み込み、一部の水分は大気中に蒸発して、再び雨を降らします。
大洋がもたらす水分と屋久島の山が育んだ森が、豊かな水の循環を生み出したのです。
隣の種子島には屋久島のような森が無いことからも、洋上のアルプスとして林立する山々が、屋久島独特の気候を作り出していることが想像できるでしょう
花之江河から尾根伝いに歩くと、巨岩や泉の向こうに、宮之浦岳のこんもりとした山頂部が見えてきます
森の向こう、雲海の下、東シナ海の青い大洋は青空と混じるように水平線はぼんやりしていました。