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クーバービル島にて-探検船で行く南極クルーズ-
ペンギンのルッカリー(集団営巣地)に、ひときわ騒がしい鳴き声が聞こえて来た。
その方向を見ていると、ペンギンの雛鳥の群れが、押し合いへし合いしながら一目散に駆けて来る。
数十羽の雛鳥が一斉に鳴き声を上げながらやって来たのは、きっと親鳥を探すためだろう。
親鳥と出会える雛鳥もいれば、いつまでも見つからない雛鳥もいる。
親を間違えてしまう雛鳥もいるのだが、大人の鳥は冷たく追い払っていた。
こうして親鳥と再会できずに息絶える雛鳥もたくさんいるようだ。
ルッカリーのあちこちで活気良く動くペンギンの脇には、やはりあちこちに雛鳥の骸もまた目につく。
雛鳥を狙うカモメ(オオトウゾクカモメ)もまた彼らの天敵だ。
雛鳥と言えども成鳥に近い大きさに育っているので、カモメとほぼ同じ大きさであるが、隙を見つけてはカモメは雛鳥に攻撃をしかける。
あわやカモメにさらわれそうになっていると、親鳥が目を吊り上げて、カモメに反撃をしていた。
親ペンギンの表情からは明らかに怒りが見えたので、鳥にも表情があることを発見してしまった。
このようにルッカリーは混沌そのもので、自然本来が備える無慈悲と豊穣が同居する天国であり地獄でもあるようだ。
昼寝をするペンギンの横では、カモメに襲われている雛鳥もいるわけだが、全く気にする素振りも見せない。
おそらく毎日が大騒動なのだろうが、ペンギン全体にとっては平和そのもので、クールビル島はジェンツーペンギンの楽園であった。