ブッチ・キャシディの指名手配の記事を見たのは、国道40号線のラ・レオナ牧場であった。この牧場は、国道にカフェを出していて、そこの壁に記事のコピーが貼られていたのだ。ラ・レオナ牧場は、パタゴニアにある。
かつてのパタゴニアは、流浪者の辿り着く僻地であった。詐欺師上がりの王様から、氷河に飲み込まれた牧場の主の話まで、魅力的な話がたくさんある。
ブッチ・キャシディは、そんな流れ者の一人だ。約100年前、アメリカで大暴れしたアメリカ一のならず者である。サンダンス・キッドとともに列車強盗を繰り返し、突然と姿を消した。
その2人が、パタゴニアに現れる。丸太小屋に暮らしていたらしいが、また強盗をやらかし姿を消す。ピンカートン探偵事務所のファイルでは、彼は3回死んだことになっている。最後は、ボリビアで銃撃戦の末に死んだという話もあれば、故郷で父とブルーベリーパイを食べたという話もある。
あのとき記事を写真に収めて、僕は建物を出てしまったが、今度行く時には少し話を聞いてみようと思う。
「ただ、無法者の歴史をひもといてみようとお考えの方には、一言警告しておかねばならない。無法者というのは十の偽名をもち、十の別の場所で死ぬことができる連中だ、と。」(ブルース・チャトウィン「パタゴニア ふたたび」)